ぬくもり2




山の天気は変わり易い

それを象徴するかのごとく、二人が滑り始めて数分もしない内に

青く晴れ渡っていた空は、黒い雲で覆われ

少し降り始めた雪は、瞬く間に大雪へと変わり

強風と共に、終には吹雪へとその姿を変えた









「小狼君、どうしよう!!」

自然の猛威に声をかき消されないように、さくらは大声をあげる

「慌てるな!!ゆっくりと降りていけば大丈夫だ!!」



横から前からと方向を変えて、吹雪は激しく二人を攻める

ゴーグルは直に真っ白く染まる

また、視界は全くのゼロ

自分達のほんの周囲1メートルが確認出来るくらいだ



「何があるかわからない!!慎重に行くぞ!!」

「うん!!」


そして二人はゆっくりと滑って行った









「さくらちゃんと李君が、頂上に行かれたんです!!」

吹雪を伝えるアナウンスに、すぐさま知世は、引率の先生にそう知らせた

「わかった。」

そう告げて先生は、焦りの色を残してその場を足早に去って行った


「さくらちゃんと李君、大丈夫かなぁ。」

利花や奈緒子、千春や山崎らは不安げにロッジの窓から外を見る

激しさを増す雪、何も見えない外を見て、その不安は益々増す


「大丈夫ですわ。あのお二人なら。」

皆の不安を取り除くように、知世はにっこりとしてそう告げた









自分達が何処をどう滑っているのか全くわからない

二人は慎重に、ゆっくりと滑っていた


「大丈夫かさくら!!」

時折小狼が、さくらに声をかける

こんな大変な状況下であっても、自分の事を心配し、気に掛けてくれる小狼に

さくらは嬉しさを隠せなかった




そして、その事で一瞬気が緩んだのか

さくらは、自分の前の視界の変化に気づくのが、一瞬遅れた




前には、あるはずの雪の道も、何もなかった




そこにあるのは、崖――




「!?」

慌ててブレーキをかけようとするが、間に合わない

そして









「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」









さくらの悲鳴が、山に響いた・・・









「この吹雪では山に出られないらしい。少し収まるのを待ってから、救助隊が出るそうだ。」

戻って来た先生から告げられた言葉

それにより、知世の言葉によって取り除かれた皆の不安が、再び現れる



「大丈夫なの〜?」

涙目になる千春の肩に、山崎が手を置く

「大丈夫だよ。李君がいるんだから。」

そう諭すように告げる

「そうですわ」

知世も続ける




『李君、さくらちゃんをお願いしますね』

見えない山に向かって、知世はそう呟いた









「さくらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

さくらの悲鳴を聞くや否や、小狼は大声で叫んだ




返事は、無い


『くそっ!!なにがあったんだ!?』

言いようの無い不安が、小狼に襲い掛かる




『落ち着け、落ち着くんだ』

自分にそう言い聞かす

『あいつの・・・、さくらの気配を、魔力を探るんだ』

そして、スキー板を外してストックを雪に突き刺すと、小狼は歩き始めた









ほどなくして、小狼は崖へと続くスキーの跡を見つけた

スキーの跡は、崖の淵で途切れている



「ここから、落ちたのか!?」

言いようの無い恐怖と不安が、再び小狼を襲い始める

『落ち着け、落ち着くんだ』

また、自分に言い聞かす

「ふぅ」

一つ、大きく息を吐く

「よし」

そして小狼の姿は、崖の下へと消えて行った









崖の下に滑り降りた小狼は、自分の体の事も全く考えることなく、直ぐ様辺りを見回す

「っ!?」

目の前には、無造作に散らばった、さくらのスキー板とストック

背筋に、嫌なものが走る




「さくらぁぁぁぁ!!」

小狼は叫ぶ

「何処にいるんだぁぁぁ!?」

必死でさくらの気配を、魔力を探す




「!?あそこか!!」

さくらの気配を、魔力を感じるもとへ、小狼は急いで向かった









「さくらっ!!」

さくらの体は、半分雪に埋もれていた

気配を、魔力を感じる事の出来ない者ならば、きっと見逃していただろう

そして、さくらの体は冷たく冷え切っていた

意識は、ない



『このままではまずい』

そう感じた小狼は、さくらに積もった雪をどけ

さくらの腕を自分の胸元に回すと、そのまま背中に体を乗せた。

『どこか休める場所に』

小狼は、さくらを背負い、重い足取りで歩き始めた








<<Back Next>>
ブラウザを閉じてお戻り下さい。