Miscast 2




「ただいまより、星條高校二年B組による創作劇『バラの人』を始めます。」


ナレーション

時は18世紀、太陽王と言われたルイ14世死去の後、
ルイ16世とその王妃マリー・アントワネットの治世であった。

当時、貴族と平民の身分の差は大きく、重税で苦しむ平民の怒りはまさに爆発寸前であった。



   



スポットライトに照らされる中、臙脂の軍服に身を包んだプラチナブロンドのオスカルが登場する。
館内がその美しさに沸き立つ。

前評判はともかく、知世の扮装は今までの彼女のイメージを覆す程似合っていたのだ。

さくらの明るい美貌の陰で静かな光をはなっていた知世だったが類まれなる美少女であることに変わりはない。
彼女もまたその世界で『永遠の妖精』の名を欲しい侭にした雨宮撫子の姪だったのだから。

だが、やはりオスカルのイメージを持つ者にとっては
多少のちぐはぐさが残るのは・・・その内股歩きのせいだったかもしれないが・・



「王妃さま、どちらにいらっしゃるのでしょうか?あたくしです。オスカルです。」

知世のセリフと同時に館内からエ〜ッツという驚きの声が。

オスカルといえばジャルジェ将軍家の後継ぎとして女性の身でありながら男性として育てられた男装の麗人。
無論、男言葉のはずなのだが・・・。一体何故?

だが、その疑問も次のさくら扮するマリー・アントワネットの登場と共にため息に変わる。

校内一の美少女の華麗なるドレス姿に会場はやんや、やんやの喝采だ。
これを見るためにわざわざ学園を訪れた者も少なくはないのだから・・。
そして彼女の美しさは期待以上で、観客の多くが劇が始まったばかりだというのに満足していた。

さくらコールが鳴り響く。

だが、その大歓声に負けない大声が客席から聞こえた。


「てめぇら、静かにしろ。」


この怒声に一瞬、舞台の上の二人もあっけにとられたものの、会場はもとの静けさを取り戻した。

声の主が誰かは言うまい。





「ここにおります。オスカル。」

「どうしたのですか?この所、ふさぎこんでばかり。舞踏会にはいらっしゃいませんの?
 それとも国王さまに何か?」

「いえ、陛下は相変らず、国民を助けるための相談をしておいでですわ。

 今年の日照りのせいで国民達はいらだっています。

 それなのに貴族達は毎晩、舞踏会や賭け事ばかりに熱中して・・

 わたくしのこのドレス一つのためにどれほど国民達が苦しい思いをしているかと思うと
 こんな王室滅びてしまった方がいいのではないかと本気で思ってしまいます。」


「王妃様、そのような事を軽軽しく口にするものではありませんわ。
 仮にも貴方はオーストリア皇女にして、このフランス王室の象徴なのですから。」

「ねぇ、オスカル。私は思うのです。本当の幸せって何なのでしょう。
 私は愛する人と共にいられれば王妃としての肩書きなどいらない。」

「それは・・・男として育てられた私には許されない事かもしれませんが
 愛する人に幸せになって欲しい気持に変わりありませんわ。

 王妃様、ひとつお尋ねしても宜しいでしょうか?王妃様の愛する方とは・・・
 フェルゼン伯ではないですわよね。」

「何を馬鹿なことを・・・私の愛する方は陛下以外にありません。何故、そんなことを言うのです。」

「国民の間でその噂が・・・一体、誰がそんなデマを流しているのかしら。」



その時、どこからとも無く足音が響いてきた。

フランス王朝時代の華やかな衣装を纏った国王の登場に黄色い声援が飛ぶ。

小狼のルイ16世姿。

それは一種の神々しささえ感じるほどに彼にぴったりだった。
由緒正しき彼の家柄がそうさせるのか、高校生とは思えない威厳がある。
そしてそのクールで端正なマスクと合い重なって、
スポットに照らされた瞬間、ホォ〜というため息が会場のあちこちで漏れた。



「王妃。」

「陛下。お話は終りましたの?」

「国王陛下にはご機嫌麗しゅう。それでは私は失礼致します。」

「いや、オスカルもいてくれ。・・・実は国民が動き出した。
 やはり何者かが煽動しているらしい。
 長くこの国を守ることを考えていたがやはり時代の流れは民主主義を求めている。
 それを民が望むなら、それが本当の意味でこの国を守ることなのかもしれない。
 国民のための国なのだから。もはや一刻の猶予もない。

 オスカル、アンドレを呼んでくれ。私たちは行く。」

「陛下!そのような時に行かれては二度と・・・」

「帰れなくなっても構わない。そうだろう。王妃。」

「はい。陛下と一緒なら例え地の果てでも。
 オスカル、後の事はよろしく頼みます。あなた方にとっても苦しい役割かもしれません。

 決して無理はしないで。いざとなったら迷わず逃げてください。
 私たちの名前など取るに足らないものなのですから。」

「王妃!」



二人はそう言って去っていく。

入れ替わりに入って来たのはアンドレ役の千春だ。

「オスカル、お二人は行ってしまわれたのか。」

「えぇ。何故あの方達はこんな時代に生まれてきてしまったのでしょう。
 世が世なら幸せに愛し合い暮らしていけたはずの二人ですのに。
 そして私たちも・・。貴方の愛にもう少し早く気づいていれば、違う生き方もあったかもしれない。

 いえ、後悔はしませんわ。何を躊躇うことなく、今こうして貴方は側にいてくれるのですから。」

「今俺達にできることは二人のお子を逃がす事。そして・・・」

オスカルの肩を包み込むように後ろから抱きしめるアンドレ。

そして舞台は暗転する。



   



「なんや、全然、ベルばらとちゃうやんか。この脚本書いた奴話知ってるんやろか?」

雪兎の上着から声がする。

「そう言うお前は知ってるのか。」

「あったりまえや。兄ちゃん、ワイが何年生きとるとおもっとんのや。
 兄ちゃんこそ、しってんのかいな。」

「知らん。」

「あはは。会話が弾んでるね〜。それにしても二人の夫婦ぶり息があってるよね。」

「なんだと!」




   




そして二幕が始まった。
場面はパリの街中である。



「はははは・・これで暴動が起きる。そうなれば、ルイ王朝も終わりだ。」

一人舞台で大笑いをするのはフェルゼン役の山崎だ。

セリフからすると悪役のようだが彼の生来のニコニコ顔のせいか今ひとつ迫力に欠ける。



「初めて会った14年前のあの日。
 仮面舞踏会で見たあの人のマスクを剥ぎ取ってしまった瞬間から、
 私はこの日が来るのを待っていたのかもしれない。
 遠いスウェーデンから亡命して見つけてしまった私だけのバラ。
 真珠色の肌。すみれ色の瞳。花の様な唇。

 それなのに、あの人は王妃だった。
 許されない恋だと何度あきらめようとしたことだろう。だが、この思いは深まるばかりで・・・。

 しかし漸く報われる時が来たのだ。
 たとえそれが悪魔の仕業でも運命の神は私に味方したのだ。

 この革命に乗じて彼女を国外へ逃亡させ途中で国王と引き離してしまえば・・・。
 マリー、君を愛している。」


そこへ御者が飛んでくる。

「フェルゼン伯、フランス衛兵隊が国民側に就きました。まもなくこちらへやってきます。
 ここは危険です。早く、王宮へ。」

フェルゼンの高笑いと共に二人は退場する。



そして入って来たのはオスカル、アンドレ率いるフランス衛兵隊。
劇とはいえ十数名の軍服姿は圧巻だ。



だが、スポットが中心の二人に的を当てた瞬間、場内がざわめいた。


「桃矢。あのオスカル・・・さくらちゃんだよね。」

「あぁ。そうみたいだな。」

「ほんまや。そんでアンドレが小僧?どうなっとんのや。」

訳のわからないまま、しかし会場内は異様な熱気に包まれる。


「さくら先輩。素敵〜!!」

「李君、こっちの姿もかっこいい!!」

この世代の学生達は原作を知らない者が多いのか、ただ、ただ二人のカッコ良さと早変わりに感動している。



先ほどのドレス姿もさることながら、プラチナブロンドの髪を翻し軍服姿で颯爽と歩くさくらの凛とした美しさ。

そして先ほどとは打って変わって眼帯をつけ、剣を脇に刺した軍服姿の小狼。

こちらはもうアンドレそのままの眼差しでオスカルを見詰めている。
それは一枚の絵のように華やかで美しい光景で・・・フラッシュが客席から絶え間なく光る。



盛り上がる観客席の反応を見ながら、舞台袖では二人の人物がほくそえんでいた。


「皆驚いてますわね。」

「うん。知世ちゃんから言われて原作ぶち壊しで書き始めた時はどうなることかと思ったけど。」

「おほほほ・・。さくらちゃんのオスカル姿を見るためならどんな事でもしますわ。

 それにしてもあの二人の美しい事。やはりこのキャストは正解ですわね。

 ・・・出番まで、しっかり撮らせて戴かねば。」





そして劇はクライマックスに向って進んでいく。









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