初雪 ・・・ さくらside
                                    九里香 様




『…今日は今年一番の冷え込みとなる模様です。続いては各地の予報をお伝えします…』

 リビングのテレビから、天気予報が聞こえてくる。

(…今年一番の冷え込みか…雪、降るかな…?)

 さくらは、キッチンで洗い物をしながら、窓の外のどんよりと曇った空を見上げた。

「…重い…」

 空の色を見て、ぽつりと呟く。

 最近、こんな天気ばかり続いているので、明るい日差しが少し恋しい気がする。

「もう少し、色味が欲しいのよね………」

 と、手を休めて思考を巡らす・・・

「あ、そうだ…!」

 何かを思い付いたさくらは、残った洗い物を手早く済ませ、二階の自室にかけこんだ。









 小狼との待ち合わせ場所に向かう道すがら、彼の家に遊びに行くのにわざわざ外で

待ち合わせをすることになった経緯を、さくらは思い出していた。

 迎えに行くよ、という小狼と、私が行くよ、というさくらの押し問答の末の待ち合わせ。

(・・・二人でヘンな意地の張り合いしちゃって・・・)

 くすっと、笑みがこぼれるさくら。

 ふと、頬に冷たいものが触れた。

 一粒の結晶で濡れた頬に手を当て、空を仰ぎ見る。

「…わぁ、白い花びらみたい…」

 重たい灰色の空に散りばめられた白い六花が、さくらのもとへと降りてくる。

「私と同じ、お花のプレゼントだね」



挿し絵
<Illustrated by Shibainu sama>



 今年初めての雪がはらはらと舞う空に、微笑んでそう呟くと、大事に抱えている小さな

花束を見た。

『花』のカードに手伝ってもらった、色とりどりの花たちは、小狼のちょっと殺風景な

部屋に色を挿すだろう。

(…小狼くん、見てるかな…?)

 浮き立つ気持ちに押されるように、さくらの歩調は段々と早くなり、やがて、

駆け出していた。





<了>




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