夢の途中で |
《 1 初夏 》 わたしが一番好きな曜日、今日は土曜日。 学校のある日も好きだし、お休みも、もちろん好き。 だから土曜日って1粒で2度美味しいって感じしない・・? お昼のHRも終わったし、初夏の風がすごーく気持ちイイから、屋上に出てみよう。 「いいお天気だな〜」 うーんと背伸び。空がまっさお。・・じゃないね、「スカイブルー」っていうんだよね。 きらきら、きらきら、なにもかもが反射して光ってる。 なにもかもが、眩しい・・ 「小狼くんが友枝町に帰ってきて、もう1月経っちゃった。」 まわりに誰も見えないから、思わず声に出した。 最近、小さなことが嬉しい。 廊下の掲示板に張ってある「連絡事項」に、小狼くんの名前をみつけたとき。 体育館の天井の、小狼くんが柱にはさんじゃった、バレーボール。 いっしょに知世ちゃんの歌を聴いた、音楽室の窓の側にはえてる高い木。 そして、同じ中学校。同じ校章。 「エヘヘ・・・同じ制服」くるっと回った。うれしい。 で、きっとこの屋上に、こんなとき小狼くんは絶対いるんだー。 多分、屋上のなかでも一番高いところ、出入り口の建物の上にいる。 下からは見えないけど、その建物は結構広くて高いから、そこに登るのは小狼くんくらい。 ま、わたしも登るけど・・。 「やっぱりいた!・・・・あ。」 小狼くん、寝てる。 頭の下にカバンを敷いて、仰向けに、腕を眼の上に重ねて膝を立ててる。 風がこんなに気持ちいいんだもん。誰だって眠くなっちゃうよね。 「・・・やっぱり、笑ってるみたい」 寝顔を近くで見た。 小狼くんの寝顔、口が笑ってるかたちになってて、かわいいの。意外だね、って言ったら怒るかな?ずっと前に、一度だけ見たきりだから、久しぶりにじっくり観察。 小狼くんがたま〜に見せる、なんか「かわいい」とこ、わたしは大好き。 でもきっと小狼くんは、そんなとこ見せたくないんだと思う。 だってその後、わざと難しい顔してるから。 だから、よけいに私だけに見せてくれたんだって感じがして、好き。 あれ?小狼くん、なんか言ってる。 「う〜ん、う〜ん」 そっか、ここ日陰はないし下はコンクリートだし、暑いんだ。 このままじゃ、小狼くんひからびちゃう!! 「『樹』・・・」小さな声で封印解除。 どうか『樹』さん、小狼くんの眠りを守ってあげて。 わたし、この寝顔をなくしたくないの――― 《 2 白昼夢 》 『ケガしてる・・・』 暗い部屋、冷たい石のテーブルの上に置かれた小さな命。 それは、俺の大事にしている青い鳥。 ここはどこだ?どこの建物? 闇の中にいやな感じの気配がひそみ、こちらを観察している。 数え切れない程の冷たい視線が身を刺すけれど 誰もこちらに手を伸ばそうとはしない。 『冷たくなっていく・・』 手の中の小さな青い鳥の様子がおかしい。 どうしちゃったのだろう? 『命の灯火が消えていくんだよ』 闇からささやく声がする。 そうか。 生きているって、温かくて柔らかいこと。 死ぬって、冷たくってかたいこと。 今わかった。今気付いた。 あのとき『死』を体で感じた夜、初めて怖いと思った。 たまらず闇の中をがむしゃらに駆け出す。 でも、結局は何処へもいけない。 探しているものさえ分からない。 『しゃおらんくん』 でも今あいつがやっとおれの名前を呼んだ。 ああ、やっとみつけた。もう大丈夫だと思った。 それはとても温かくて、とても柔らかかった。 《 3 真昼の太陽 》 「小狼くん?」 目の前に、愛らしい無邪気な顔。おれと目が合ってにっこりとしている。 えーっと。今のは昔の夢か?飼っていた小鳥を死なせてしまった時の。 俺、たしか屋上にいて、うとうとして・・・ あれ、でも木陰だ。下もコンクリートじゃない。あたたかくってやわらかい。・・え? 「っっっ!!!!!!!!xxxxxx(/////////)」 俺、さくらの膝まくらで寝てる!!!そんな!ど、どうして!! 「おはよう。よく寝てたね。もう2時だよ?」 がばっと起き上がった俺に、屈託のない笑顔。さくらが膝まくらしてくれたのか? 多分、真っ赤になっている俺に、さくらは笑って言う。 「あ、びっくりしたんだね。小狼くん暑そうだったから、『樹』使ったんだよ。涼しくなかった?」 「いや、驚いたのは、そっちじゃなくて・・・・」 「?」 「俺、さくらの膝に・・・」 うつむいた俺に、ああ、とまたさくらはにっこり笑う。 そのあと、信じられないことを言った。 「小狼くんね、一度眼を覚まして隣に座ってたわたしに『あ、生きてる・・』って言ったんだよ」 えぇ?なんだそれ?意味不明。全然覚えてないぞ。 でももっと信じられないのは次の言葉だ。 「でも、まだ寝たりないって感じで、またコテンって横になっちゃったの。わたしの膝の上に。」 ななななんだって!?おれ、自分でさくらの膝を、枕にしちゃったのか!!??自分から! さくらは、なぜか嬉しそうにニコニコしている。ウソじゃないようだ。 「・・・・・・・・・・」 激しく自己嫌悪してその場に座り込み、立てた膝に顔をうずめた。 どうして、そんなことしちゃったんだ? 寝ぼけてたとはいえ、これじゃ、甘えん坊のガキだ! 顔をすこしだけ傾けて、さくらを横目で見た。天使のように微笑み返す。 「?・・・どしたの?」 しかも、おれ、さっき夢から覚めたとき、さくらの顔みて泣きそうになった――― やっとさくらに逢えた安心感で。 「・・・・最悪だ」 ―――回復不可能―――。 《 4 だいすき 》 小狼くん、さっきまるでちっちゃな子供みたいで、かわいかった。 なんだか、わたしに心許してくれてるんだって気がして、嬉しかった。 小狼くんは、また難しい顔して前を歩いているけど・・・・ 「ね、わたし小狼くんに、もっといろいろしてあげたいな」 まだ背中が恥ずかしがっている小狼くんに向かって言ってみた。 階段を下りながら、小狼くんは振り向かずに答える。 「い、いろいろって?」 んー。膝まくらみたいなことだけど・・・ 「小狼くんが喜ぶことぜんぶ!!」 そういって、後ろから抱きついたら、小狼くんまた赤くなってる。 あ、これってわたしが喜ぶことしちゃった。 「・・・・それ、ほんとだな」 小狼くんの首にぶらさがったまま、うん、て言った。 「じゃあ・・・さっきのこと、忘れてくれ。」 「やだ。さっきの小狼くんもすきだもん。かっこいい小狼くんとおなじくらい。」 あ、大きなため息ついてる。 困っている小狼くんも、だいすき。 【 おしまい 】 |
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