..。:*・’,★ 天体観測 ★,’・*:。..





PM10:00
携帯の着信音が鳴る。


「ねっ、小狼くん。
窓の外見てみて。星がすっごく奇麗なの!」
弾むように耳に飛び込んでくるおまえの声。
俺は、言われるまま窓辺へ近づくと、カーテンの隙間から夜空を見上げてみた。
確かに・・・・
都会には珍しく、空一面に星々が瞬いている。
何万光年もの彼方から届けられた、小さな光たち・・・・


「・・・たくないな・・・」
「えっ・・?」
「一人でいたくないな。行ってもいい?」
「ああ」
我ながらそっけない返事だな。
心とはかなり裏腹だ。
断れる訳ないだろ?
俺は、いつだっておまえと一緒にいたいんだから。


「うれしいっ!すぐに行くからね、待ってて!」
おまえがすぐって言ったら、それは本当にすぐだ。
俺は、窓の外に意識を集中する。
そして、2分と待たずにおまえの気配を捕まえる。
近づいて来る、愛しい気配・・・


ベランダに出て待つことにしよう。
もうすぐおまえは、背中に真っ白な羽をつけて、
満天の星空から、ふわりと腕の中に舞い下りてくる。

・・・・俺だけの天使・・・・

俺は、その羽を折らない様に、そっ・・と抱きとめる。


「ね、屋上に出てみない? 流れ星、さがそっ!」
天使はいつだって気まぐれだ。
「だめ・・・かな?」
その上目使いの「お願い」が、俺の弱点だって気づいてるだろ?


寝静まったマンションの非常階段を、
おまえの手を取って、忍び足で登っていく。
本当は、屋上も非常時以外使用禁止なんだぞ。
それなのにおまえときたら・・・
コーヒーのポットまで持って、まるで遠足気分なんだ。


「うわーっ!」
俺のため息なんかおかまいなしに、おまえが無邪気な感嘆の声を上げる。
ただでさえ高台にあるマンションだ。
その屋上ともなれば、視界を遮るものは殆ど無い。
頭上に広がる360度の星空。


俺は、さらに一段高い場所・・・機械室の上に登ると、
持ってきたブランケットを広げて、おまえを呼ぶ。
「ほら、早く。」
「手を貸してくれないの?」
「ジャンプがあるだろ。」
わざと意地悪した。
すねた顔が見たかったんだ。
笑顔の次に好きだから。
それは多分・・・家族以外、俺にしか見せない顔だから。


おまえの用意したコーヒーを飲みながら、二人ならんで夜空を見上げる。
「奇麗だね・・」
「ああ(おまえの方がよっぽど)」
「星の声が聞こえるみたい。歌、かな・・・?」
「そうか(それはきっとLove Songだ)」
括弧の中は、多分・・・一生言えない台詞たち。
がらじゃないもんな。
もっと素直になれたら、言葉をうまく紡げたら、
もっともっとおまえの笑顔に会えるかもしれないのに。
損な性格だ。
かわりにおまえの細い肩を抱き寄せる。
お前は腕の中で俺を見上げると、花びらがほころぶ様な笑顔で言うんだ。
一瞬にして俺をとろかす台詞を・・・
「えへへ・・ここが私の居場所だよ。」


天球に翼を広げる星座たち。
俺は、求められるまま、おまえにその名を教える。
それは、時を超えて語り継がれる、神々の恋物語。
遠く、いにしえに思いを馳せ・・・訪れる沈黙。
夜のしじまが、二人を包み込んだその時、

細く尾を引いて流れ落ちる、一筋の光。

・・・・待ちわびた瞬間・・・・

おまえはすっと目を閉じると、胸の前で手を組む。
その横顔は、祈りの深さを物語るように、敬虔で・・・美しい。


「どうしたの、小狼くん?」
おまえの声で我に帰る。
どうやら不覚にも見とれていたらしい。
「いっ・・いやっ、なんでもない。それより何を祈ったんだ?」
照れ隠しに聞いてみる。
「あのね・・・
小狼くんといつまでも一緒にいられますようにって・・・ 小狼くんは?」
「内緒」
「えーっ!ずるいよ、私のばっかり!」
「おまえの寝坊がなおりますようにって。」
「ひっどーいっ!」
うそだよ・・・わかってるだろ?
いつだって願いは一つだ。
振り上げたおまえの可愛いこぶしを手の平で受け止めると、
そのまま胸に抱き寄せて・・・

・・・そして・・・

こんなこと、めったに言わないんだからな。
心して聞けよ。

「約束する。星に誓って。さくらの願いを叶えるってさ。」

「小狼くん・・・」
おまえの翡翠の瞳がみるみる潤んで・・・今度は涙だ。
俺の天使は、本当に忙しい。


未来は、星を数えるようにあやふやかもしれない。
けれど・・・今この瞬間の気持ちは本物。
抱きしめた腕をほんのちょっと緩めると、
おまえは俺を見上げてゆっくりと瞳を閉じた。
そっと落とす唇・・・流れ星の様に・・・


距離の無くなった俺達の上に、
何万光年もの彼方から放たれた、星々の光が降り注ぐ・・・











「そろそろ戻ろう、送ってくから。」
「帰らないよ。ちゃんとミラーさんにお留守番頼んできたし、
それに今夜は、お兄ちゃんもお父さんもいないんだ。」
「そっ・・そんなこと、言ってなかったじゃないか。」
「お兄ちゃん、急なバイトがはいちゃって。
それに私、最初の電話で言ったよ、一人でいたくないって。」

天使は、星の光を浴びて小悪魔に変身したらしい。

長い夜になりそうだ・・・







                                           Ende.









★ ぷにゅん様コメント ★


空気も澄んで参りましたこの季節、
二人ならんで星を見上げるなんて、ロマンチックっ!
って事で、書きました。
相変わらず、甘いです。

小狼くんは夜空見てません(笑)
くるくる変わるさくらちゃんの表情を観測してるんです。
彼にとって、彼女は唯一の星ですから。




ブラウザを閉じてお戻り下さい。