Memories





「うわ〜ん、お兄ちゃんが取ったぁ!」
あらあら、どういたしましたの?
「おまえが先にごまかしたんじゃないか!」
まあ、けんかはいけませんわ。いったい何が原因ですの?
「だからお兄ちゃんが、私のクッキー取ったんだよぅ・・・。」
「ふん!」
それではなかよく分けましょう。ひとつ、ふたつ、みっつ・・・。
全部で七つありますわね。
「半分にはできないよ。」
そんなことありませんわよ。ほら、みっつずつ。
「やっぱり一つはんぱになっちゃうよ。」
だいじょうぶ。
---サクッ。
ほら、一つのクッキーが二つになりましたわよ。
はい、ひとつずつ。
「ありがと!」
「・・・しかたねぇな。」

 

『いくぞ!』
『はい!』
『風花招来!!』
『雷!!』



「かっこいいよねぇ、このお兄ちゃん・・・。」
「俺、このお姉ちゃん、大好きだな。」
おほほほほ。
「これ、本当によくできてるよねぇ。」
「そりゃそうだろう。大道寺トイズで作ったんだから・・・。」
「まるで本物みたいだよねぇ。」
「臨場感あふれてて最高だよな。」
それはそうでございましょう。
「ねえ、このお兄ちゃんたちに会えないの?サイン欲しいなあ・・・。」
・・・お会いするのは難しいかもしれませんわね。
「そうなんだ、残念!」
「でも、この二人、本当に最高だよな。息もぴったり合ってるし・・・。」
「ほんと。演技だなんて思えないよね!」
もちろん、そのとおりですわ。なんといってもお二人は・・・。
「もう一度、今のところ見たい!」
「おい、ちょっと待て。もうすぐ終わるだろ。」
ビーーーーー。ビシビシ。
「あ〜あ、そら見ろ。無理に巻き戻したりするから・・・。大事なテープだったんだぞ。」
「ふ、ふぇ〜ん。」
泣かないでくださいな。いいのですわ。
そろそろ処分しようと思っていたのですから。
「え、捨てちゃうの?!」
ええ。
「だって、こんなにおもしろいのに・・・。」
「もったいないよう。」
でも、すべては諸行無常。諸法無我・・・。
すべてのものは移ろっていくのですから・・・。
「なあに、それ・・・?」
大人になればわかりますわ。



---今日は本当にいいお天気ですわね。
「知世さん、何をなさっているのですか?」
思い出の整理を・・・。
「あれ、それは・・・。」
ええ、そうですわ。
「・・・いいのですか?あんなに大事にしていたのに・・・。」
ええ。
ここに書いてあることはすべて私の心に刻まれておりますから・・・。
手紙が煙になって天に帰っていっても、わたくしの心の中のものまでは消えませんわ。
「本当にそのとおりですね・・・。」
あなたにおわかりいただけてわたくし幸せですわ。
「寒くならないうちに部屋に戻ってくださいね。」
ええ。



今ごろ何をなさっていらっしゃるでしょう。
最後にお会いしてからもう十年以上になりますわね・・・。
わたくし、最近気付いたことがありますの。
ずっと昔、わたくしあなたに申し上げましたわね。
人が一番わからないのは自分のことだと・・・。
わたくし、わたくしの心はちゃんとわかっていると思っておりましたの。
わたくし、あなたがあのかたといらっしゃると一番輝いていらっしゃるから
お二人でいられるのが好きなのだと思っておりましたの。
ずっとずっとそう思っておりましたの。
でも今はわかります。
いつの間にか、わたくし、お二人がいっしょにいらっしゃること、
そのこと自体が好きになっていたのですわ・・・。

いっしょに歩んでいけないと気付いてしまった時、
わたくし、とても悲しく思いました。
なぜならやさしいあなたはきっとそのことで
ご自分を責められてしまうから・・・。
お願いですわ。
笑顔を忘れないでくださいな。
あなたの笑顔でわたくしがどれほど救われたことがあるか
あなたは気付いていらっしゃるでしょうか・・・。

わたくし、本当に幸せでしたわ。
あなたの傍であなたを見つめつづけ、
あなたの幸せとともに私の幸せも
より大きなものに育っていったのですから・・・。
どこにいてもわたくしあなたを、お二人を感じていられますわ。
だって、あなた方お二人は
いつもいつもわたくしのことを思っていてくださいましたから・・・。

さあ、もうそろそろ準備をしなければなりませんわ。
わたくし、先に行かなければなりません。
でも、全然心細くはありませんわ。
わたくしの心はお二人のくださった黄金色の思い出であふれているのですから。
いつでもどこでも見守っておりますわ。
あなた方お二人がずっとずっと幸せでいられますように・・・。



---ひとつだけ、お願いしてもよろしいでしょうか?
来られるときは必ずお二人でいらしてくださいね。
お一人で来られるなんてわたくし、絶対許しませんわ。




「・・・知世さん。」
はい、今まいりますわ。
・・・この一枚だけは傍に置かせてくださいましね。



母譲りの宝石箱に大切にしまわれたのは
きらきら輝く一つの思い出。
何よりも笑顔の似合う美しい人と
彼女を見つめる優しい瞳の人と
そして
その二人を包み込むようなあたたかい人が
いっしょに写っている写真・・・。





『さくらちゃん!』
『知世ちゃん、会いたかったよぅ、知世ちゃん!!』
『わたくしもお会いできてうれしいですわ。』

『ありがとうございました。』
『いや・・・。』



---『わたくし、やっぱりお二人のことが大好きですわ!』---







-----Fin-----








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