『冬景色』
                        





「うわっ、寒い…」

真っ白な天からの贈り物を見つめて小狼が呟く。
細かな結晶が厚い雲の中から静かに降りて来る。
さくらは白い息を弾ませて、隣に立った彼に声を掛けた。

「小狼君寒いの苦手だもんね。」
「ああ。」

ここは小狼のマンションのベランダ。
恒例になった勉強会の為、さくらはここに来ていた。
ちょうど休憩時間になり、ココアでも入れようとミルクをあたためている間、
何時から降り出したのか、窓の外を眺めたさくらが雪に気付いたのだ。

「私ね、夏も好きだけど、冬も大好きなんだよ。」
「そうか。」
「それだけ?」
「えっ…??」
「どうして好きなのか知りたくないの?」

さくらの事なら何でも知りたいに決まってる。
けれどその言葉はのどの奥で熱に変わってしまったらしい。
口から出ることなく、小狼の顔を真っ赤にさせた。

「さくらの方が言いたいんだろ…」

照れ隠しに呟いた言葉は少々ぶっきらぼうになってしまったが、
隣の彼女はそんな事気にも止めずに、えへへ、わかちゃった?とはにかんだ。

「冬の空気ってね、凄く澄んでるでしょ。
 冷たくて、ピンと張り詰めた感じがして……
 あのね…なんとなく小狼君に似てる気がするの…」
「えっ…」

えーっと…どういう意味なんだ??俺が冷たいって事なのか???
確かにあんまり気の利いたこと言ったり、したりするの苦手だけど…
軽くパニックになった小狼の手をさくらの手がそっと包み込む。

「でね、ちょっとした事がとっても温かいって気付くの…」

その手を子猫が甘えるように頬擦りするさくら。
触れた指先から伝わる温かさ。春の陽だまりのような彼女。
…なんて愛しいんだろう…

「さくら…」

見上げて微笑む彼女の唇に軽く触れるキス。
顔を上げるとまん丸の瞳がこちらを見つめる。
照れくさくて思わず口から零れる言葉。

「………冷たい…アイスクリームみたいだぞ。」
「小狼君だって…」

頬をその名のように染めて、微笑むさくら。
俺はやっぱり春が一番好きだな、とか思う。

「体冷えちゃったね。さ、中に入ってあったかいココア飲も?」
「ああ。」

まだまだ寒い日が続くけど、彼女がいれば大丈夫。
だって彼女は「さくら」なんだから。












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