12月の片思い





「小狼くん、ごめんね。私先に帰る!」
そう言うが早いか、あいつは踵を返すと、あっと言う間に夕暮れの薄闇のなかへ姿を消した。
「いったい、なんなんだ・・・」
一人取り残された俺は、呆れてため息をつく。
いつだってそうなんだ。あいつには振り回されてばっかりだ。
周りには、たった今あいつが倒した敵・・・公園の展望台のフェンスの残骸が散らばっている。
「さて、どうするかな・・・」
このまま、放置したら危ない。
暗くなって、フェンスがないことに気づかずに人が転落したら大変だ。
まずは・・・
「風華招来!」
フェンスの代わりに、風の結界を張った。結界と言うよりは、弱い風の幕だ。
こうしておけば、近づく人が気づくだろう。
それから、公園の管理事務所だ。
知らせて、ロープを張ってもらったら、結界を解いて・・・

すべての後処理を終わって、公園を後にする頃には、すっかり日が暮れていた。
急いで帰らないと・・・偉が心配してるだろう。
駆け出すと、吐く息が白く凍る。
すっかり寒くなった・・・もうすぐクリスマスだものな。
帰り道の商店街は、イルミネーションも眩しく、華やかに装っている。
俺は、走る足を緩めると、ひとつのショーウィンドウに目を留めた。
入ったこともない、ファンシーショップ・・・・

「小狼くんにも渡すね、クリスマスプレゼント!」
今朝、あいつはそう言ったんだ。
すごくうれしくて、その笑顔が眩しくて、思わずこの気持ちを告げてしまいそうになった。
山崎に邪魔されてしまったけど・・・
たとえ邪魔がなかったとしても、言えなかったな・・・どうして言えないんだろ・・・
本当は、分かってる。
言ってしまえば、あいつを困らせるから。
あいつが好きなのは、あの人だ。
それに・・・やっぱり臆病になる。今の関係を壊したくない。
そう思う反面、時々たまらなくなって・・・
心は、いつだって振り子の様に両極に揺れてるんだ。
そして、そんな自分を少し持て余している。

考えてみれば、不思議だな。
去年の今頃、俺達は恋敵だったんだ。
遊園地で偶然、あの人と一緒のあいつに会って、あいつの方に嫉妬してたんだよな。
それなのに・・・いつの間にか、こんなにあいつのことを好きになるなんて・・・

俺は、思い切って店のドアを押した。
取り付けられているベルが鳴って、どぎまぎとする。
「あの・・・」
「いらっしゃいませ」
「ウィンドウの、レ、レースのハンカチを・・・」
「はい、スイス刺繍のものですね。それで、イニシャルは何になさいます?」
「エ、エスで・・・」
「かしこまりました」
(もし、あいつが本当にプレゼントをくれたら、何かお返しがないとな。)
(ハンカチなら、何枚持ってても困らないし、もらった方も負担にならないだろ。)
(それにあいつ、泣き虫だから、絶対ハンカチは役に立つ・・・)
気がつけば、店員がラッピングしている間、ずっと頭の中で言い訳を並べていた。
素直じゃないな・・・本当は何でもいい、あいつに贈り物がしたいだけのくせに。

こんな風に誰かに捕らわれるなんて・・・
少し前の自分からは想像もできなかった。
人に翻弄されるなんて、一番許せないことだった。
でも、今は・・・
あいつに振り回されてる自分が、結構好きだったりするんだ。
あいつを好きになった自分を気に入っている。
本当に不思議だな。

店を出ると、木枯らしが火照った頬に気持ちよかった。
いつか、この思いを告げることができるんだろうか・・・
そして、その時あいつはなんて返事をしてくれるのかな。
俺は、包みを背中のバッグにしまうと、イルミネーションの街に駆け出した・・・










「小狼くん、どうしたの?」
くまの「さくら」を手にしたまま、黙り込んでしまった俺を心配したのだろう・・・
さくらが声をかけてきた。
「いや、ちょっと昔の事を思い出しただけだ。」
「昔の事って?」
「このハンカチを買った時の事。」
それは今、さくらの手で「さくら」の頭にリボンで留めてあった。
まるで、ウエディングベールの様に・・・
その横には、さくらのつれてきた「小狼」が幸せそうに寄り添っている。
クリスマスだものな・・・

「こいつらに負けてられないな」
「どういう事?」
「こういう事。」
俺は、さくらの髪に指を埋めると、素早く唇を重ねた。
不意打ちのキス・・・
「小狼くんたら・・・」
「だめか?」
「だめじゃないけど・・・」
じゃ、もう一度・・・今度はしっかり抱きしめて。

やっぱり、クリスマスは二人がいい。
願わくば、この幸せが永遠に続きますように・・・

メリークリスマス





                                Ende





★ ぷにゅんさんコメント ★


アニメの「さくらとカードとプレゼント」の続編です。
さくらちゃんは、走り去った後、エリオルにピアノを教わっていたという・・・
なのに、小狼ったら後片付けしたり、プレゼント買ってみたり・・・
切なすぎます(ってお前が書いたんだろっ!)
アニメでは、クリスマスのシーンはなかったんですよね。
さくらちゃんは小狼くんに何をあげたのでしょう?
差し詰め、手作りクッキーかなんかでしょうか(笑)
最後は完全に蛇足・・・
あまーいシーンが書きたかっただけです。クリスマスですから(笑)
付けない方がよかったかなぁ・・・
アニメベースなのに、なぜ「くまさくら」があるの?などというツッコミは一切受け付けません。
ええ、受け付けませんとも!(笑)







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