break time  〜中学生バージョン〜




 「やー、もうやだー。やめるー。」

  夏休み。今日さくらと小狼は、二人で宿題をしていた。

  さくらは、数学が苦手だから、小狼に教えてもらいながらやっていたが、とうとう、行き詰まってしまった。

 「そんなこと、言うな。ほら、もう一回、教えるからさ」

  小狼はさくらをなだめて、宿題に向かわせようとする。

 「やー、もうやなのぉ。だって、わかんないんだもん」

  さくらが、口をとがらせて言う。

  そんな姿は愛らしく、小狼はさくらに流されそうになる自分を必死に押しとどめる。

 「わかった。じゃあ、休憩な。お茶いれるよ。」

  小狼の言葉に、さくらは、両手をあげて喜ぶ。

 「わーい! 小狼くんちのお茶、おいしいから、大好き!」

  ”大好き”という言葉に、ビクッと反応するカラダ。

  小狼は、台所へ向かう。



 (えっと・・・・、確か、こっちに・・・・)



  小狼は、香港から取り寄せている、小狼お気に入りのお茶を出す。

  さくらはこのお茶がお気に入りだ。

  さくらと自分とのそんなささいな一致が、小狼には嬉しいことだった。



  周りに誰かいる時は、しっかりしなきゃ! がんばらなきゃ! と、自然と肩に力が入ってしまうさくらが、自分の前では肩の力を抜いて、その反動であるかのように、甘えん坊になることを、小狼は知っている。



  それはかわいらしくって、愛しくって、思わず抱きしめたくなるほど、

 うれしいことだった。

  しかしその一方で、ついさくらに甘くなってしまう自分を自覚していた。



 (今日は、ちゃんと宿題させなきゃな!)



  小狼は自分に言い聞かせた。



  お茶とお菓子を手に、さくらのいるリビングに戻る。







 (あれ?)

  さくらは眠っていた。背もたれがわりに使っていたソファに、カラダを投げ出すようにして。

 (待たせてしまったかな・・・・)

  少年はそう考えたが、とりあえず手にあるトレイを置こうと、テーブルに近付く。

 (どうしたものか・・・・)

  起こすべきか、このまま寝かせておこうかと考えながら、視線を少女に送る。



  ドクン



  視線は、クギづけになる。



     安らかな寝息をたてて眠る少女。

     それは、本当に、ふつうの、かわいらしい少女で。

     その姿からは、全く想像できない。

     この少女が、あんなに強い心を持っているなんて。



  だからーーー、初めて会った時は、あんなに反発していた。

  こんな少女に、クロウカード集めなど、できるものか!

  ましてや、クロウカードの主になど、なれるはずもない!





  あのころのオレは、ひとりよがりだったなーーーー。



  少年は苦笑する。



  クロウカードの異変が発覚し、そのために派遣される人材として、自分が選ばれたとき。


  ーーーーとても、うれしかったんだ。


  だからオレは、張り切りすぎて、肩に力が入りすぎだった。

  喜んで、異変の生じた街、この友枝に来てみれば、もうクロウカードを集めているヤツがいて。

  それが、どうみたって、普通の少女で。

  どうしてこんなヤツが!?って、おもしろくなかった。

  自分は、小さな頃から訓練を重ねてきたし、クロウカードについてだって、一生懸命学んできた。

  きのうまでクロウカードの存在すら知らなかったようなヤツに、できるわけがないって、思っていた。



  しかしーーー違っていた。

  いや、少女はやっぱりふつうの少女で。

  泣き虫で、弱くて、時には、くじけそうになるけど、でも絶対あきらめない強い心を持っていた。



  泣いて、迷って、悩んで、くじけそうになるけれど、最後には、あきらめずやり抜く道を選択する。

  そして、いつだってまわりにいる人間のことを考えてやれる、その優しさ。



  あのころのオレには、余裕がなかったな・・・・。

  クロウカード集めに必死だった。

  自分の心すら、省りみることがなかった。

  だから、知らなかった。

  自分の中に、誰かのことを、こんなにも気にかけたり、優しくしたいと思う気持ちがあったなんて・・・・。



  それを教えてくれたのは、この少女。

  いつのまにかオレの心に入り込んで、そして今は、こんなにも深く、オレの心に根づいてしまった、この少女。

  その強さと優しさと明るさで、オレを引きつけてしまった、少女。



  少年は少女に手を伸ばす。

  頬にかかった、ひとすじの髪を払うために。

  その柔らかな感触は、少年の心を刺激する。

  少年はそのひとすじの髪を、指にからめ、もてあそぶ。

  ふいに顔を近づけると、そっと、その髪にキスをする。

  ふわり、と少年の鼻に届く、甘やかな香りーーーー。

  それにひきつけられるように、少女の額にくちびるを寄せる。

  この、胸にある、愛しい想いをこめながらーーーー。



 「・・・・・ん・・・・」

  少女が、身じろぎをする。

  どうやら目が覚めたらしい。

  ゆっくりと瞳を開ける。

  少年は、つぼみが開くその瞬間を見ている気持ちになる。

  目が離せない。

 「うん?小狼・・・くん・・・」

  まだねぼけまなこの少女に、少年は顔を近づけると、くちびるに、軽くキスをした。

 「え・・・。ほえっっ!!」

  驚いて叫ぶ少女に、少年は、クスリと笑いかける。

 「目、覚めたか?」

  ドキン

  そのほほえみは、少年をなんとも大人に見せて、少女はドギマギした。

 「う、うん・・・・・」

  真っ赤になって、答える少女。

 「それじゃあ、・・・・・数学の続き、やろうか」

 「えっ!?」

  いっきに現実に引き戻される、少女。

 「お茶は〜? 休憩は、なしなの〜?」

 「だってお前、今休んでたろ。寝てただろう」

 「え〜。それとこれとはべつだよ〜。

  小狼くんちのお茶、のみたい! のみたいよ〜」

  だって、さくら、大好きなんだもん。 そう言って、上目遣いで少年を見つめる。



 「はー。わかったよ。休憩にするよ。ただし、10分だけだからな」



  やっぱり、少女には甘い、少年であった。





<END>



◆ 風華さまコメント ◆

読んでくださった方、ありがとうございました。
そして、ごめんなさい。
思いっきり、暴走してます(死)
でも、中学生な設定なので、どうかお許しください(><)
清雅様、こんな作品を載せて頂いて、
ありがとうございます。
李小狼の弱点、それは、「木之本桜」 ですから(笑)
踊らされっぱなしっ♪ ですわv
李くんも、私も(爆)


 

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